調査は社労士とタッグで乗り切る|立て続けに来た調査への向き合い方【労務シリーズ④】

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社労士との労基調査

労務シリーズとして、これまで3回にわたって労働基準監督署の調査について書いてきました。今日はその続きです。ただ、少し種明かしをしなければなりません。あの調査は、実は入り口にすぎませんでした。

昨年、僕が事務長を務める法人には、監督署の調査をきっかけに、労働局の別の調査が立て続けにやってきました。そして、そのすべてを、僕は一人の社会保険労務士とタッグを組んで乗り切りました。今日は、その「専門家と組む」という一点に絞って書きたいと思います。実際に調査を受ける立場になった管理職の方に、きっと役立つはずだからです。労務シリーズの第4回です。

「労基」だと思っていたら、労働局だった

まず、多くの管理職が誤解していることを整理させてください。僕自身、この経験をするまで、きちんと分かっていませんでした。

調査や監査というと、私たちはつい「労基が来た」と、ひとくくりに言ってしまいます。でも、正確ではありません。労働基準監督署は、その上にある労働局という大きな組織の一部です。そして労働局の下には、監督署のほかにも、ハローワーク(公共職業安定所)や、雇用環境・均等室、需給調整事業室といった、複数の窓口があります。

これらは、それぞれ担当する法律も、確認しに来る観点も、まったく違います。同じ「労働局から来る調査」でも、中身は別物なのです。ここを理解していないと、何が起きているのか分からないまま、ただ振り回されることになります。

一つの調査が、次の調査を呼んだ

僕の場合、時系列はこうでした。

まず9月から、労働基準監督署による労働時間の調査が始まりました。これが①②③で書いた話です。休憩は取れているか、着替えの時間は労働時間か、といった、あの調査です。

ところが、話はそれで終わりませんでした。この監督署の調査から派生する形で、11月には労働局の別の窓口から、2つの調査が続けてやってきたのです。

一つは、パートタイム・有期雇用労働法などにもとづく報告徴収。短時間労働者や有期雇用の職員の雇用管理について確認するもので、担当は雇用環境・均等室でした。育児・介護休業法にかかわる就業規則の整備も、あわせて見られました。

もう一つは、労働者派遣事業(派遣先)の運営に係る訪問。派遣労働者を受け入れている事業所として、契約書や管理台帳が適正かを確認するもので、担当は需給調整事業室でした。

この2つは、どちらも1回のヒアリングで終わりました。監督署の調査のように何度も足を運ぶことはありませんでした。でも、大事なのはそこではありません。一つの調査が、芋づる式に別の調査を呼ぶことがある。しかも、その一つひとつが、別の法律・別の観点で来る。この事実を、身をもって知ったのです。

なぜ、社労士と組んだのか

これだけの調査が立て続けに来て、僕はどうしたか。答えはシンプルです。社会保険労務士と組みました。

正直に書きます。法人の中に、労務に詳しい人間はいませんでした。理事長も、他園の施設長も、この分野の専門家ではありません。調査の通知を受け取って、その内容を正しく理解し、的確に対応できる人が、社内にいなかったのです。

これは、決して恥ずかしいことではないと思っています。労務というのは、それほどまでに専門的な世界です。法律は頻繁に変わり、解釈は分かれ、窓口によって見る観点も違う。片手間の知識で太刀打ちできるものではありません。だからこそ、餅は餅屋。迷わず専門家の力を借りる、という判断をしました。

社労士がくれた、いちばん大きなもの

社労士と組んで、実際にたくさんのことを助けてもらいました。面談への同席、対応策の具体化、書類の整備。どれもありがたいものでした。

でも、僕がいちばん価値を感じたのは、そういう実務のサポートではありません。それは、「この調査は、いったい何を確認しに来るものなのか」という全体像を、示してくれたことでした。

考えてみてください。調査の通知が届く。そこには法律の名前や、提出すべき書類のリストが並んでいる。でも、そもそもこの調査が何を目的として、何を見ようとしているのか。その全体像は、素人にはまったく分かりません。得体の知れない相手に、いきなり土俵に上がらされるような感覚です。

そこを、社労士が解きほぐしてくれました。「これはパート・有期の雇用管理を見る調査です」「こちらは派遣の受け入れが適正かを確認するものです」と、一つひとつの調査の正体を教えてくれた。それによって、僕の中でようやく全体像がつかめたのです。何を見に来ているかが分かれば、何を準備すればいいかも分かる。霧が晴れるとは、まさにこのことでした。

全体像がつかめて、いちばん変わったこと

全体像が見えたことで、僕の中で最も変わったこと。それは、自分が理解できたこと以上に、法人の中で、上にも下にも説明できる立場になれたということでした。

理事長は、監査や調査といった言葉に、強い不安を感じる人でした。無理もありません。得体が知れず、手間も時間もかかる。ただでさえ忙しい現場に、余計な負担がのしかかる。そう思えば、身構えるのは当然です。

その理事長に対して、僕は「これはこういう調査で、ここを確認されるものです。だから大丈夫です」と、自分の言葉で説明できるようになりました。全体像をつかんでいたからこそ、根拠を持って安心材料を差し出せた。これは、とても大きなことでした。不安の霧の中にいる人に、地図を渡せるようになったのです。

一方、各園の施設長たちは、僕からのフィードバックを待っている状態でした。彼らも労務の専門家ではありませんから、僕が調査で何を指摘され、現場として何を直すべきなのかを、かみくだいて伝える必要がありました。

つまり僕は、社労士と現場のあいだに立つ、翻訳者のような役割を担っていたのです。社労士から受け取った専門的な話を、理事長には「安心」の言葉に、施設長には「具体的な指示」の言葉に、それぞれ翻訳して流していく。この一連の流れを、僕と社労士の二人だけで回していました。

調査、フィードバック、改善。この繰り返し

実際の対応は、地道な繰り返しでした。

調査で指摘を受ける。社労士と打ち合わせて、その指摘の意味を確認し、対応策を練る。それを法人内にフィードバックし、現場で改善する。そしてまた報告に行く。監督署の調査については、これを3か月繰り返しました。

たとえば、労働時間の管理については、社労士との打ち合わせの中で、時間外労働はすべて事前申請制にする、という方針を固めました。勤務前の早出も、休憩中の作業も、勤務後の残業も、すべて事前に申請して承認を得る。この原則を徹底するために申請書の様式を見直し、全職員に周知する。そういった具体策を、一つひとつ詰めていきました。

休憩についても、開始と終了の時刻を記録する仕組みを検討しました。過去にさかのぼって取得状況を確認し、取れていなかった分をどう扱うかも、社労士と相談しながら決めました。こうした一つひとつは、とても僕一人では設計できなかったものです。

専門家がいたからこそ、指摘を「宿題」に翻訳し、現場に展開できた。改善のサイクルを回し続けられた。一人だったら、最初の指摘の意味すら正しく理解できず、途方に暮れていたはずです。

三つの立場から振り返る

僕は研修講師であり、保育園を運営する法人の事務長であり、日々スタッフと関わる管理職でもあります。

講師の立場から見ると、これは「自分の領域を知る」ことの大切さを教えてくれた経験でした。管理職はなんでも自分で抱え込みがちです。でも、専門外のことは専門家に頼る。その判断ができることも、立派な管理能力の一つだと思います。

事務長の立場から見ると、これは平時の備えの話です。調査が来てから慌てて社労士を探すのでは、遅い。日頃から専門家とつながり、いつでも相談できる関係を築いておく。その備えが、いざというときに効いてきます。

管理職の立場から見ると、これは「翻訳者になる」という役割の発見でした。専門家の言葉を、不安がる上司には安心に、指示を待つ現場には具体策に翻訳して届ける。この橋渡しこそが、調査対応における管理職のいちばん大事な仕事なのだと、身をもって学びました。

これから調査を受ける管理職の方へ

もし今、あなたの職場に調査の通知が届いたら。あるいは、いつか届くかもしれないと不安に思っているなら。僕から伝えたいことは、シンプルです。

一人で抱え込まないこと。労務は専門的すぎて、多くの管理職の手に余ります。それは能力の問題ではなく、領域の問題です。だから、専門家と組んでください。社会保険労務士は、そのために存在しています。

そして、専門家に頼るときに、いちばん最初にお願いすべきこと。それは「この調査は何を確認するものなのか、全体像を教えてください」という問いです。全体像さえつかめれば、あとの準備も、対応も、法人内への説明も、すべてがそこから動き出します。僕自身、そこから道が開けました。

調査は、怖いものではありません。何を見に来ているかが分かれば、対処できるものです。そのための地図を、専門家は持っています。臆せず、その力を借りてください。

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