研修で必ず出る「で、何をすればいいの?」という問い
僕は管理職向けのイクボス研修で、講師を務めることがあります。
研修では、まず理想の状態を示します。部下のワークライフバランスを応援しながら、組織の成果も出し、自分自身も人生を楽しむ。そういう上司――イクボスの姿を、さまざまな事例を交えて伝えていきます。
すると、受講してくださる管理職の方々は、たいてい深くうなずいてくれます。理想には、共感してもらえるのです。でも、そのあとに必ず出てくる問いがあります。
「言いたいことは分かった。でも、具体的には何をすればいいの?」
これは、当然の問いです。理想を掲げるだけでは、現場は変わりません。大事なのは、明日から何をするか。そして、その具体策の一つが、今日お話しする業務改善なのです。
業務改善は、目的ではなく手段
ここで、はっきりさせておきたいことがあります。
業務改善は、それ自体が目的ではありません。手段です。では、何のための手段か。僕は、こう考えています。人を大切にする経営を実現するための、手段です。
もう少し具体的に言いましょう。業務改善の目的は、大きく三つあります。
一つ目は、社員が辞めない職場をつくること。離職を防ぐことは、そのまま戦力の維持につながります。二つ目は、人を育てること。働きやすい環境があってはじめて、人はじっくり育ちます。三つ目は、選ばれる会社になること。良い職場には、無理に採用活動をしなくても、人が集まってくるようになります。
これから先、労働力の確保は、ますます難しい時代になります。会社を永続的に続けるために本当に必要なのは、ヒト・モノ・カネのうち、どれでしょうか。僕は、ヒトだと思っています。だからこそ、そのヒトを大切にするための業務改善が、経営の重要なテーマになるのです。
業務改善は、選択肢の一つにすぎない
そして、もう一つ大事なことがあります。
「具体的に何をすればいいか」への答えは、業務改善だけではない、ということです。業務改善は、あくまで選択肢の一つ。他にもいろいろあります。
たとえば、社内のルールを変えること。時代に合わなくなった規則を、今の働き方に合わせて見直す。あるいは、古いしきたりを排除すること。「昔からこうだから」と続いているだけの慣習を、思いきってやめる。
僕はこれを、スクラップ&ビルドとして受講者に伝えています。古くなったものを壊し(スクラップ)、新しいものを build する。この発想を持ってもらうことが、研修の一つのゴールです。業務改善も、社内ルールの変更も、しきたりの排除も、すべてはこのスクラップ&ビルドの一環なのです。
なぜ、人を大切にするのか
ここまで読んで、こう思う方もいるかもしれません。「なぜ、そこまで人を大切にしなければならないのか」と。
理由は、シンプルです。人が辞めない職場は、強いからです。
人が辞めれば、その人が持っていた経験も、技術も、人間関係も、すべて失われます。そして新しい人を採用し、また一から育てなければなりません。これは、会社にとって大きな損失です。逆に、人が辞めずに長く働いてくれれば、経験は積み重なり、チームは成熟し、組織は強くなっていきます。
だから、業務改善で働きやすい環境をつくることは、優しさであると同時に、極めて合理的な経営判断でもあるのです。人を大切にすることと、会社が儲かること。この二つは、対立しません。むしろ、同じ方向を向いています。
三つの立場から考える
研修講師として、事務長として、そして一人の管理職として。業務改善について、三つのことをお伝えしたいと思います。
講師の立場から言えば、業務改善を語る前に、その目的を語るべきです。「何を改善するか」の前に、「何のために改善するか」。目的が共有されていない業務改善は、単なる作業になってしまい、長続きしません。まず、人を大切にするためだという目的を、組織で共有することです。
事務長の立場から言えば、業務改善は一つの手段にすぎない、と知っておくことです。改善がうまくいかないときは、ルールそのものを変える、古いしきたりをやめる、という別の手も検討する。手段は一つではありません。スクラップ&ビルドの発想で、柔軟に構えることが大切です。
そして一人の管理職として言えば、これはイクボスへの具体的な一歩だということです。イクボスの理想に共感しても、何をすればいいか分からなければ、前には進めません。業務改善は、その理想を現実に変えるための、確かな第一歩なのです。
あなたの職場には、「昔からこうだから」と続いているだけの仕事が、ありませんか。それを一つ見直すことが、人を大切にする経営の、はじまりになるかもしれません。
イクボスやワークライフバランスについての研修は、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の公認講師として、また現役の事務長・経営者としての実体験をもとにお引き受けしています。イクボスや両立支援についてはこちら、福祉施設向けの研修についてはこちらもあわせてご覧ください。













