
「採用と定着」シリーズも、4回目です。前回は、長く続く人には「話せる関係」がある、という話を書きました。今回は、その定着のために、僕が実際に取り組んできたことを書きます。ただ、取り組みそのものより、その取り組みを、どうやって実現できたのか。そこにこそ、お伝えしたいことがあります。中間管理職の方に、特に読んでいただきたい回です。
職場環境を、たくさん変えてきた
この10年、僕は事務長として、保育園の職場環境を、少しずつ変えてきました。
職員アンケートをもとにした業務改善。暑さ寒さをしのぐためのエアコンの増設。冬の負担を減らす除雪機の導入。古くなった建物の修繕。ICTやAIを使った業務の効率化。アンガーマネジメントやアサーティブコミュニケーションといった研修。そして、給与面の改善。挙げていけば、きりがありません。
これらの根っこには、一つの大きな方針転換がありました。それは、「お金を使わない文化」から、「必要なところには、きちんとお金を使う文化」へ、という転換です。それまで、職員が「仕方ない」と諦めて我慢していたこと。暑さ、寒さ、古い設備、重い業務。そこに、ちゃんと投資をする。職員が安心して働ける土台に、経営としてお金と手をかける、という方向に舵を切ったのです。
でも、いちばん大事なのは、その手前の話
ここで、多くの方が、こう思うかもしれません。「そんなに次々と改善できるなんて、恵まれている」「うちは、提案しても、上が首を縦に振らない」と。
その気持ちは、痛いほど分かります。だから、正直にお伝えします。僕も、最初から、こんなに自由に動けたわけではありません。これらの改善が実現できたのは、その手前に、もっと大事な、地道な積み重ねがあったからです。それは、経営者からの「信頼」を、少しずつ勝ち取ってきた、ということです。
信頼は、地道にしか、積み上がらない
組織を変えるような改善には、当然、お金がかかります。そして、お金を使う判断をするのは、経営者です。つまり、どれだけ良い提案をしても、経営者が「この人に任せて大丈夫だ」と思ってくれなければ、何も実現しません。
では、その信頼は、どうやって得るのか。近道はありませんでした。目の前の仕事に、真摯に取り組む。小さな成果を、地道に積み上げる。任されたことに、きちんと応える。その繰り返しです。派手なことではありません。でも、そうやって成果を出し続けるうちに、少しずつ、風向きが変わっていきました。
最初は、一つひとつ、おそるおそる提案していました。それが、だんだん、ある程度の裁量を任せてもらえるようになる。「提案してくれたら、前向きに考えるよ」と言ってもらえるようになる。そしてついには、こちらが言わなくても、経営者のほうから「これ、改善したらいいんじゃない?」と言ってくれるようになった。ここまで来て、ようやく、環境改善が、スムーズに進むようになったのです。エアコンも、ICTも、給与改善も、この信頼の土台があって、初めて実現できたことでした。
職員のための改善は、信頼の上に成り立つ
つまり、こういうことです。職員の定着のために職場環境を良くする。そのためには、お金を使う。お金を使うには、経営者の信頼がいる。そして信頼は、地道な成果でしか、積み上がらない。
もし今、「改善したいのに、上が動いてくれない」と悩んでいる中間管理職の方がいたら、お伝えしたいのは、このことです。焦らず、まず、目の前の仕事で信頼を積み上げてください。遠回りに見えて、それが、組織を変えるための、いちばん確かな道です。環境改善は、テクニックではなく、信頼の上に成り立つのだと、僕は実感しています。
ちなみに、ICTやAIの導入では、僕自身がまず率先して使ってみせるようにしています。上に立つ者が使ってみせると、職員からも自然と質問が出るようになる。これもまた、「まず自分が動く」という、信頼づくりの一つの形かもしれません。
三つの立場から
僕は研修講師であり、保育園を運営する法人の事務長であり、日々スタッフと関わる管理職でもあります。
講師の立場から見ると、これは「巻き込む力」の話です。良いアイデアも、実行する権限がなければ絵に描いた餅。上を動かす信頼こそが、改善を実現する力になります。
事務長の立場から見ると、これは自分の役割そのものです。経営者と現場のあいだに立ち、両方から信頼される。その位置にいるからこそ、できることがあります。
管理職の立場から見ると、これは近道のない話です。信頼は、一日では築けません。でも、地道に積み上げた信頼は、簡単には崩れない、確かな土台になります。
おわりに
正直に言えば、これだけ環境を良くしても、辞める人がゼロになったわけではありません。100%の解決策など、やはり、ないのです。
それでも、職場環境は、確実に良くなってきました。そして、長く続けてくれる人、辞めない人が、少しずつ増えています。地道な一歩の積み重ねは、裏切りません。信頼を積み上げ、環境を整え、また信頼を積み上げる。その繰り返しの先に、人が定着する職場が、少しずつ形になっていくのだと思います。次回は、視点を変えて、自分の会社での両立支援の取り組みについて書く予定です。











