すぐ辞める人、長く続く人|その差は「話せる関係」にある【採用と定着③】

職員同士が話しやすい関係を耕す保育園の職場のイメージ

 

「採用と定着」シリーズも、3回目になりました。前回までは、人を採ることの難しさを書いてきました。今回は、その先。採用した人に、どうすれば長く続けてもらえるのか。「すぐ辞める人」と「長く続く人」の違いについて、考えてみます。

先に正直に言っておくと、長く続く人の条件は、僕自身が知りたいくらいです(笑)。それでも、長く現場を見てきて、うっすらと見えてきたことがあります。

辞める理由に、共通項はない

まず、辞めていく人の理由を思い返してみると、驚くほどバラバラです。

他の業種に行きたくなった人。人間関係に疲れて、別の園へ移る人。地方から都市部へ出ていく人。結婚や出産など、ライフスタイルの変化で辞める人。理由は、本当に人それぞれで、「これが原因だ」という共通項は、見当たりません。だから、辞める理由の側から対策を立てるのは、とても難しいのです。

ところが、視点を変えて、「長く続く人」のほうに目を向けると、うっすらと共通点が見えてくるのです。

続く人は、しんどさを逃がせる

長く続く人の特徴。それは、周りの職員と、たくさん話ができることです。

ただ、これは「明るくて社交的」という意味ではありません。もっと切実な話です。たとえば、誰か特定の人から、陰口を言われたと感じたとします。そんなとき、長く続く人は、別の誰かに、その愚痴を吐き出せるのです。しんどさを、一人で抱え込まない。ちゃんと、逃がせる。

逆に、一部の人としか話さない人は、この逃げ道がありません。嫌なことがあっても、溜め込むしかない。そして、その澱が、少しずつ積もっていく。「話せる」ことの本当の価値は、楽しくおしゃべりできることではなく、つらいときに、それを吐き出せる相手がいることなのだと思います。この差が、続くか辞めるかに、静かに効いてくるように感じています。

保育士ならではの、ギャップ

ここで、保育という仕事ならではの、切ない事情があります。

保育士を目指す人の多くは、「子どもと関わりたい」という思いで、この道に入ってきます。だから、子どもとの接し方は、とても上手なのです。子どもの前では、生き生きしている。ところが、実際の仕事には、子どもとの関わりだけでなく、同僚という「大人との関係」が、必ずついてきます。そして、そこに、思わぬギャップを感じる人がいる。

子どもとは上手に関われるのに、同職の大人とは、どこか距離を感じてしまう。これは、その人が対人関係全般を苦手としている、ということではありません。「子どもと関わりたい」と思って入ったのに、大人との関係に気を遣う現実が、想像以上だった。その入職動機と現実のズレに、疲れてしまうのです。特に新卒の場合、この壁を、より高く感じるかもしれません。だから、保育士でありながら、対人関係の疲れから、他業種への転職を考える人が出てくる。決して、その人が悪いわけではないのです。

だから、組織が関係を耕す

では、管理する側に、できることはないのか。ここには、数少ないけれど、打てる手があります。それは、人と人が話す機会を、意図的に増やしていくことです。

お互いのライフスタイルを知る。プライベートを、少し知り合う。それだけで、いろいろなことが動き出します。相手の家庭の事情が分かれば、休みや働く時間の配慮ができる。共通の趣味が見つかれば、それをきっかけに話しかけられる。組織というのは、結局、人の集まりです。人同士が話す機会が増えれば増えるほど、その場所は、居心地のいい場所になっていく。関係性は、放っておいて育つものではなく、意図的に耕していくものなのだと思います。

子どもとの関わりを求めて入ってきた人が、大人との関係でつまずかないように。その橋渡しを、組織が少し手伝う。それが、定着への、地道だけれど確かな一歩になります。

三つの立場から

僕は研修講師であり、保育園を運営する法人の事務長であり、日々スタッフと関わる管理職でもあります。

講師の立場から見ると、定着は、個人の頑張りに任せるものではありません。「話せる関係」を、組織としてどう作るか。その仕組みづくりが問われます。

事務長の立場から見ると、これは日々の観察の話です。あの人は、最近ちゃんと話せているか。孤立していないか。その小さな目配りが、一人の退職を防ぐこともあります。

管理職の立場から見ると、これは、場をつくる責任の話です。人が自然に話せる雰囲気を、上に立つ者が、まず作る。その空気が、職場全体を、居やすい場所にしていきます。

おわりに

長く続く人は、しんどさを逃がせる関係を持っている。だから、組織が、その関係を耕す手伝いをする。ここまで書いてきて、一つの筋道は見えた気がします。

ただ、正直に付け加えなければなりません。関係を耕す努力をしても、すべての人に、長く続けてもらえるわけではありません。最後は、本人と、その組織との相性もある。どれだけ手を尽くしても、去っていく人はいます。それは、寂しいけれど、受け入れるしかない現実です。手を打つことはできる。でも、万能ではない。その両方を、正直に抱えながら、僕は今日も、スタッフが少しでも話しやすい場所であるようにと、願っています。次回は、そうやって定着に向き合う中で、僕自身が実際に試してきたことを、書いてみたいと思います。

管理職研修・アンガーマネジメント・講演のご依頼は

秋田県内を中心に、オンラインや全国対応も可能。まずはお気軽にご相談ください。

無料でご相談はこちら

関連記事

管理職向けコラム

  1. AIで時間を捻出し部下と向き合う管理職のイメージ

    2026.9.3

    AIで時間を作る本当の意味|”部下と話す余白”をつくる管理職の技術

    今日から、新しいテーマで書いていきます。「AI×イクボス」。
  2. 将来を見据えて先を読む管理職のイメージ

    2026.8.31

    変化を先取りする管理職へ|採用と定着、その先の未来【採用と定着⑥・完】

    「採用と定着」シリーズも、今回で最終回です。
  3. 上司の生き方が家庭にも届くイクボスの両立支援のイメージ

    2026.8.29

    上司の背中が、最高の両立支援になる|自ら行動するイクボス【採用と定着⑤】

    「採用と定着」シリーズ、5回目です。
  4. 経営者の信頼を得て職場環境を改善してきた保育園の管理職のイメージ

    2026.8.28

    なぜ職場を変えられたのか|信頼を勝ち取るという地道な道【採用と定着④】

    「採用と定着」シリーズも、4回目です。
  5. 職員同士が話しやすい関係を耕す保育園の職場のイメージ

    2026.8.27

    すぐ辞める人、長く続く人|その差は「話せる関係」にある【採用と定着③】

    「採用と定着」シリーズも、3回目になりました。

ピックアップ記事

  1. 2026年7月14日、大阪へ行ってきました。
  2. 7月3日、鹿角市立十和田小学校のPTA教育講演会にお招きいただき、小学5・6年生の児童と保護者の...
  3. 6月21日(日)、秋田市アトリオンビル6階にて開催された「ハーモニーフェスタ2026」の第2部で...
  4. 先日、東京ビッグサイトで開催された「理想の管理職EXPO 東京・春」に参加してきました。
  5. 青森県深浦町にて、管理職の皆さんを対象に「部下を伸ばす 感情マネジメントと適切な指導法」をテーマにア...