
職員は全員が女性。男性は、僕ひとり。しかも、外から来た管理職として、ある日突然やってきた。
これは、僕が保育園の事務長として着任したときの話です。女性ばかりの職場に、男性の管理職として入っていく。同じような立場に置かれて、戸惑っている方は少なくないと思います。今日から数回に分けて、僕がその中でどう信頼関係を築いてきたのかを書いていきます。第1回は、その全体像です。
「女性職場の心得」を求める前に
先に、正直なことを書きます。
女性ばかりの職場に男性が着任すると、多くの人が「女性職場ならではの心得」のようなものを知りたがります。女性はこう考えるから、こう接するべきだ、という類の話です。僕も着任当初、周りからそうしたアドバイスをもらったことがあります。
でも、今の僕ははっきり思います。
そういうノウハウ話には、あまり意味がありません。
むしろ、経験上こう感じています。「女性職場ではこうすべき」と心得を立派に語る人ほど、実際には職場で信頼されていないことがある。頭で分かったつもりになっていることと、実際に信頼されることは、まったく別なのです。だからこの記事も、「女性はこういう生き物だ」というマニュアルにはしません。
そもそも、性別の問題ではない
僕自身の前提を書いておきます。
僕が立ち上げたあきたこまちネットも、スタッフは女性が中心でした。これまで在籍したスタッフも、多くが女性です。加えて、僕は妹が2人いる環境で育ちました。だから、女性と働くことに対して、特別な苦手意識やアレルギーはありません。
なぜこれを書くかというと、この記事が「女性が苦手な男性が、それを克服した話」ではないことを、はっきりさせておきたいからです。
僕がお伝えしたいのは、もっと普遍的なことです。
信頼のない状態から、どうやって信頼を築くか。たまたま相手が全員女性で、僕がひとりの男性だった。でも本質は、性別ではありません。外から来た人間が、既にできあがった集団の中で信頼を得る。その話です。
前任者は、なぜ疎まれたのか
僕の前任の事務長は、30歳前後の若い男性でした。そして、職員から疎まれていたと聞いています。
その理由を、僕なりに分析してみました。
一つは、
事務長という役職に必要なスキルや能力が、まだ伴っていなかったこと。若さそのものが問題なのではありません。役職が求める仕事に、力が届いていなかった。
もう一つは、
積極的にコミュニケーションを取りに行かなかったこと。会話をするのが特定の数名に限られていた。職場全体と関係を築こうとしなかったのです。
言い方は良くありませんが、結果として「なめられていた」のだと思います。そして僕は、ここに大事なヒントがあると感じました。
「威厳」とは、頼られることだった
「なめられないためには威厳が必要だ」とよく言われます。僕もそう思います。ただ、この「威厳」という言葉を、誤解してはいけません。
威厳とは、偉そうにすることでも、威張ることでもありません。僕にとっての威厳とは、
頼られること、任せられること、頼もしいと思われることです。
つまり威厳は、自分が上から作り出すものではなく、
相手の中に自然と生まれる信頼の別名なのです。前任者に欠けていたのは、威張る力ではありません。頼られるだけの中身でした。
だから僕がやろうとしたことは、威厳を示すことではなく、頼られる存在になることでした。そのために心がけたことを、次に整理します。
僕が心がけた3つの姿勢
着任してから、僕が意識して続けたことはたくさんあります。振り返ると、大きく3つの姿勢に整理できます。
一つ目は、
「引く」姿勢です。でしゃばらない。自分の守備範囲以外のことで前に出過ぎない。一定の距離感を保つ。変に媚びない。そして、焦らない。外から来た人間が最初からぐいぐい前に出れば、警戒されるだけです。まずは引くことから始めました。
二つ目は、
「応える」姿勢です。頼まれたことには、最優先で対応する。何かあれば、責任は自分が取る。着実に、誠実に対応し続ける。引いてばかりでは、ただの頼りない人です。頼まれたときにきちんと応えるからこそ、信頼が積み上がります。
三つ目は、
「気にかける」姿勢です。誕生日には声をかける。プライベートな話も、きちんと耳を傾けて聞く。常に笑顔でいる。服装の清潔感にも気をつける。相手を一人の人として気にかけていることが、日々の小さな振る舞いから伝わっていきます。
この3つを、僕は
1年以上、地道に続けました。特別なことは何もしていません。ただ、当たり前のことを、焦らず、誠実に、続けただけです。
1年後、むこうから声をかけてくれた
変化は、ある日ふいに訪れました。
もう一つの保育園の主任が、あるとき、むこうから僕に声をかけてくれるようになったのです。それまで、その主任はおそらく1年近く、僕のことをじっと観察していたのだと思います。この人は信頼できるのか。口先だけの人ではないか。時間をかけて、見定めていた。
その主任が、自分から声をかけてくれた。このとき僕は、「ああ、ようやく認めてもらえたのかもしれない」と感じました。1年以上かけて続けてきたことが、静かに実を結んだ瞬間でした。
信頼は、こちらが急いでも手に入りません。相手が、こちらを見て、時間をかけて判断するものだからです。だからこそ、焦らないことが何より大切だったのだと、今になって思います。
おわりに
女性ばかりの職場に、男性管理職として入る。この状況に特別な必勝法があるわけではありません。少なくとも、僕は見つけられませんでした。
やったことは、でしゃばらず、誠実に応え、相手を気にかけ、そして焦らず時間をかけること。ただそれだけです。地味で、遠回りに見えるかもしれません。でも、この地道な積み重ね以外に、信頼を築く近道はなかったと断言できます。
次回からは、今日挙げた3つの姿勢を、一つずつ具体的に掘り下げていきます。まずは「引く」姿勢について。外から来た管理職が、なぜ最初に引く必要があるのか。その話を書きたいと思います。
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