
先日、福祉施設の研修担当者向けの研修に参加してきました。そこで同じグループになった、訪問介護の事業所で働くヘルパーさんから聞いた取り組みが、今も頭から離れません。
「伝達研修」という言葉、ご存じでしょうか。正直に言うと、僕はこのとき初めて聞きました。そして話を聞き終えたとき、自分の法人のやり方を思い返して、少し恥ずかしくなったんです。今日はその話を書きます。
報連相が生命線の職場だからこそ
まず前提として、その方の事業所は訪問介護、つまりヘルパーの仕事です。ここが重要でした。
ヘルパーの仕事は、全員が同じ事業所の中で働いているわけではありません。それぞれが利用者さんのお宅を回り、バラバラの場所で業務にあたっている。顔を合わせる時間そのものが限られています。
だからこそ、報連相が生命線なのだと話していました。申し送りも当然、命綱です。情報が伝わらないことが、そのまま事故やトラブルにつながる仕事だからです。この「伝えることに徹底的にこだわる文化」が、事業所の土台にある。その一環として生まれたのが、伝達研修でした。
伝達研修とは何か
やっていることは、言葉にすればシンプルです。
誰かが外部研修に参加したら、その内容を全体の場でフィードバックする。復命書や研修報告書を書いて終わりにしない。実際に人を集めて、どんな内容だったのかを自分の口で伝える。
ただ、僕が唸ったのはその先です。フィードバックの場で、矢継ぎ早に質問が飛ぶのだそうです。そして報告者は、その場で回答まで行う。
報告して終わり、ではないんです。聞いた側が「それはどういうことですか」「うちのケースだとどうなりますか」と次々に問う。報告者はそれに答えなければならない。
なぜこれが「身になる」のか
その方は「研修に出たことを全員に共有することで、自身の振り返りにもなり、身になる」と話していました。この言葉を、僕なりに考えてみました。
報告するだけなら、極端な話、資料を読み上げれば済みます。話す側は「話した」という事実を作れる。
でも、質問に答えるとなると話が変わります。自分が本当に理解できているかどうかが、その場で露呈するんです。答えられない質問が出れば、「あ、そこは聞き流していたな」と自分で気づく。曖昧なまま持ち帰っていた部分が、はっきり浮かび上がる。
つまり伝達研修は、情報共有の場であると同時に、報告者自身の理解度チェックの場として機能しているわけです。ここが、普通の研修報告との決定的な差だと思いました。
しかも、この仕組みには副次的な効果もあります。「戻ったら全員の前で説明して、質問にも答えなければならない」と分かっていれば、研修の受け方そのものが変わる。聞き流せなくなるんです。研修に出る前から、すでに効果が始まっている。
正直に告白すると、うちの法人は
ここで正直に書きます。僕が事務長を務める法人では、外部研修に参加した職員は、研修報告を書いて回覧する。基本的に、それだけです。
回覧そのものは、きちんと回っています。ただ、受け取った側はどうでしょうか。斜め読みをすれば、その職員が研修に行ったことは分かる。でも、どんなことが大切だったのかまでは、正直、伝わっていないと思います。
これは書いていて痛いところですが、事実です。回覧は「情報を配った」という事実を作ってくれます。でも「理解が伝わった」ことは、何一つ担保していない。配ったことと、届いたことは別なんです。分かっているつもりで、そこを曖昧にしていました。
ヘルパーさんの話を聞きながら、僕は自分の法人のやり方を思い返していました。今後、取り入れたいと感じています。
三つの立場から見た伝達研修
僕は研修講師であり、保育園を運営する法人の事務長であり、日々スタッフと関わる管理職でもあります。それぞれの立場から、この仕組みを見てみます。
研修講師の立場から見ると、これほどありがたい仕組みはありません。講師として一番つらいのは、受講者が研修の場では熱心に聞いてくれても、職場に戻った瞬間に忘れられてしまうことです。伝達研修があれば、学びが職場に持ち帰られ、もう一度言語化される。研修の効果が何倍にもなります。
事務長の立場から見ると、費用対効果の話でもあります。外部研修には、参加費も交通費も、その職員の勤務時間もかかっている。一人が学んで一人の中に留まるのと、一人が学んで全員に広がるのとでは、同じコストで得られるものがまるで違います。
管理職の立場から見ると、職員の理解度が見える場になります。報告を聞けば、その職員が何をどこまで掴んだのかが分かる。次にどんな研修に出すべきか、判断材料にもなるはずです。
取り入れるなら、ここに気をつけたい
ただ、そのまま真似すればうまくいく、という単純な話でもないと思っています。僕が話を聞きながら考えた注意点を、正直に挙げておきます。
一つは、質問が飛ぶ場は、文化がないと成立しないということです。あの事業所で矢継ぎ早に質問が出るのは、報連相が生命線という土台があるからでしょう。普段から発言しにくい空気の職場でこの場を作っても、シーンとしたまま終わります。仕組みだけ持ち込んでも、形だけの報告会になりかねません。
もう一つは、報告者の負担です。「全員の前で説明して質問に答える」のは、決して楽ではありません。これが罰ゲームのように感じられてしまえば、研修に行きたがる職員がいなくなる。本末転倒です。時間を短く区切る、質問は責める調子にしない、といった運用の配慮が要ると思います。
それでも、この仕組みには取り入れる価値が十分にあると感じています。
よくある質問
Q. 伝達研修と、研修報告書の回覧はどう違いますか?
A. 回覧は情報を配りますが、理解が伝わったかどうかは担保しません。伝達研修は、報告者が自分の口で説明し、質問に答えます。この「答える」工程があることで、報告者自身の理解度が確認でき、聞く側の疑問もその場で解消されます。
Q. 質問が出ない職場では、どう始めればいいですか?
A. いきなり全体会で完璧な場を作ろうとせず、少人数から始めるのが現実的だと思います。また、管理職が最初に一つ質問をして口火を切るだけでも、空気は変わります。質問が出ないのは職員の意欲の問題ではなく、場の設計の問題であることが多いはずです。
Q. 伝達研修は、どのくらいの時間をかけるべきですか?
A. 長く取ればよいというものではありません。むしろ短く区切ったほうが、要点を絞る力が鍛えられます。報告者の負担が重くなりすぎると、研修に行くこと自体が敬遠されてしまうため、その職場に無理のない時間設定から始めるのがよいでしょう。
おわりに
研修に参加すると、講義そのものよりも、同じグループになった方との会話から大きな学びを得ることがあります。今回の伝達研修も、まさにそうでした。言葉すら知らなかった仕組みを教わり、自分の法人の課題を突きつけられた。ありがたい時間でした。
外部研修に職員を送り出している法人は多いと思います。でも、その学びが本当に組織に還元されているかどうかは、別の問題です。回覧で終わっていないか。一度、点検してみる価値はあるかもしれません。僕自身、まずはそこから始めようと思っています。
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